文化・歴史

モンゴル遊牧民と家畜|暮らしに根付く多様な呼び名とコミュニケーション

モンゴルで遊牧民と結婚した小山久子さんによる、モンゴル奮闘記シリーズ。今回は、遊牧民と家畜のコミュニケーションの話。

モンゴルの遊牧民にとって家畜は単なる動物ではなく、一頭一頭が個性を持つ大切な家族です。そのため、年齢や性別はもちろん、毛色や模様、性格に至るまで、驚くほど細やかで豊かな家畜の呼び名が存在します。また、日々の放牧で家畜を巧みに操るための掛け声も作業によって使い分けられています。これらは、家畜と密接に関わりながら暮らす遊牧民の深い観察眼と知恵の結晶です。

※本記事の情報は、主に2013年時点のモンゴルのウンドゥルシレット地方の考え方です。

《年齢、性別による名称》

家畜は成長段階や性別によって呼び名が変わる。年齢は馬なら歯、牛なら角の筋で判断する。

馬 (Adoo)

年齢名称備考
1歳Onaga
2歳Daaga去勢が行われる年齢
3歳Shudlen犬歯が生える
4歳Khyazaala
5歳Coeolon
6歳Hoviig nas
7歳以上Ikh nas
その他
種馬Azraga
メス馬Guu
去勢馬Mori
オス馬Uree去勢していない馬
メス馬Baidas若いメス馬

牛 (Ukher)

年齢名称備考
1歳Togal
2歳Byaroo
3歳Gona / Gunjオス牛 / メス牛
4歳Dunu / Dunjオス牛 / メス牛
5歳以上Buduun yher
その他
去勢牛Shar
オス牛Bokh
メス牛Unee

羊 (Khoni)

年齢名称備考
1歳Khrga
2歳Tulug
3歳Shuulen / Zosagオス羊 / メス羊
4歳Khyazaalan honi
5歳以上Buduun khoni
その他
メス羊Hoch

山羊 (Yama)

年齢名称備考
1歳Ishig
2歳Borgon
3歳Shudleen
4歳Khyazaalan
5歳以上Buduun yama
その他
メス山羊Okhna

ラクダ (Temee)

年齢名称備考
1歳Botgo
2歳Torom
3歳Bo
4歳Tailagオスラくだ
その他
オスラくだBoor
メスラくだInge

《外見、性格による名称》

個々の家畜を識別するため、外見や性格の特徴を組み合わせた呼び名が用いられる。

  • 家畜自身の毛色: heer(栗毛)、tsabidar(たてがみと尾が白っぽく、総じて栗色)、zeerd(人参色)、sharga(クリーム色)、hor(葦毛色)、hondan(真っ白、羊のみ)など
  • その他の毛色: hogoon(緑色)、olaan(赤色)、bor(灰褐色)
  • 身体の部分の色や模様: buur alag(まだら)、shiir alag(すねがまだら)、usgii tsagaa(かかとの白い)
  • 身体や状態の特徴: hyalman(毛色が白く、白目が多くてまぶしがる)、tunjin(額のない)、dalio evert(でこぼこした角のある)、leg buht(ラクダの横に垂れ下がったコブ)、bugtregtei(背中が隆起した)、ootsan suult(腰より大きい尾のある)、soljir evert(1本角のある)、 selmen evert(サーベルのように細長い角のある)
  • 混ぜた毛色や特徴: bor harzan(灰褐色の顔に細長く白い部分のある)、har huren(黒茶色)、olaan booral(赤葦毛色)、ohaa yagaan(薄栗毛ピンク色)、hol hongor(葦毛淡黄色)、har heer(黒栗毛色)、har haltar(黒鹿毛色)
  • 家畜別に付けられた毛色、特徴: borlog(灰色、馬)、orog(灰色、山羊)、hondan(全身真っ白、羊)、hov(耳の小さい、羊、山羊)、tarlan(まだら、牛)
  • 毛並みの特徴: shanhan delt(両側に垂れるたてがみがある)、soilgot(つかむ為に残したたてがみがある)、savgat(胸毛のある)、nooloort(柔毛のある)、arzgar ust(縮れ毛のある)、buun suult(かたまった尾のある)
  • 性格、性質: yardage huren(強情な茶色)、oroo sharga(捕まえづらいクリーム色)、oorgin tsenher(オールガ用の水色)、hashin heer(遅い栗毛色)、zugtee olaan(頑固な赤色)、govshaa haltar(他の乳まで飲む栗毛の口や鼻に黄白毛の混じった)
  • 成長過程の特徴: shivree gonij(乳の出やすい3歳メス牛)、haidag halzan(次の子を産まずに乳を出す顔に細長く白い部分のある)、henz huren(遅生まれの茶色)、oogan halion(最年長のかわうそ色)、telee har(2匹の母から乳を飲んだ黒色)
  • 歩き方(主に馬): Joroo saaral(側対歩の灰色)、ariljaa heer(hatirとjorooの間の歩き方をする栗毛色)、hatirch bor(ハティルで走る灰褐色)、agsam haltar(狂暴な栗毛の口や鼻に黄白毛の混じった)

《家畜への掛け声》

家畜の面倒をみる時には、作業によって掛け声が異なる。

追立てる時呼ぶ時大人しくさせる時集めたり、分けたりする時
ラクダフッジ、フーグトール、トールハーグールギー、グールギー
チュー、チューゴロイ、ゴロイハーイ、ハーイグールギー、グールギー
フッジウーヴ、ウーヴフール、フール、ハーグールギー、グールギー
チュッジ、ドゥッジドル、ドルチャーグールギー、グールギー、ホールボイ
山羊チュッジ、ドゥッジゾー、ゾー、ズーチャッグールギー、グールギー、ゾー、ゾー

執筆本文:小山久子 編集:長岡岳志

スタッフより|遊牧民と馬を結ぶ、言葉と絆

家畜一頭一頭に付けられた細やかな呼び名や、目的ごとに使い分ける掛け声は、遊牧民が家畜と築いてきた深い関係の証です。言葉を通して通じ合う、遊牧民と馬の特別な絆が、私たちの旅を支える馬たちにも息づいています。

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nagaoka takeshi

nagaoka takeshi

2013年から1年間モンゴルに留学してモンゴル語を習得。出会った遊牧民のツォクトさんのホームページを作ったことが経緯となって、ツォクトモンゴル乗馬ツアーの予約担当をしています。 最高の乗馬ツアーを作るために活動しています。モンゴル・キルギス・カザフスタンでの乗馬ツアーを各国の現地法人で運営しています。

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