文化・歴史

モンゴル遊牧民の暮らしの単位:自然と身体で世界を測る

時計や定規がなくても、モンゴルの遊牧民は自分たちの世界を正確に測る方法を持っている。彼らの「単位」は、ゲルの天窓から差し込む太陽の光、自分たちの身体、そして共に暮らす家畜たちの姿そのものである。時間、長さ、深さといった抽象的な概念を、日々の暮らしに根付いた具体的な事象で捉える。それは、自然と深く結びついた彼らならではの豊かな世界観の表れである。

※本記事の情報は、主に2014年時点のモンゴルのウンドゥルシレット地方の考え方と価格です。価格は現在では10倍ぐらいになっています。

時間:太陽と仕事のリズム

ゲルと太陽の位置で時間を知る

ゲルに太陽が差し込む位置で、おおよその時間を知ることができる。

  • toonin huruund baikhad: 天窓の縁に光がある時
  • khanin tolgoid baikhad: 壁の上部に光がある時
  • nar golloj baikhad: 太陽が真上にある時(正午)
  • oroin nar hanin tolgoid baikhad: 夕方の光が壁の上部にある時 など、光の位置によって数十もの表現がある。

太陽の昇降で時間を知る

  • uur khayarakh: 夜が明け始める頃
  • uuriin gegee orokh: 明かりが差し込む頃
  • udshiin shar gegee: 夕方の黄色い光
  • bor gegee: 灰色の光(日没後)

毎日の仕事から時間を知る

「乳搾りの時間」「馬に鞍を置く間」「お茶が沸く間」など、日常の作業も時間の単位となる。

  • ogoloonii saamin ued: 朝の乳搾りの時
  • mori emeellekh khoorond: 馬に鞍を置く間
  • tsai butsrakh zuur: お茶が沸く間

長さ:身体を基準に

自分の身体の一部を基準にして長さを測る。

  • huruu: 指1本分の幅
  • soom: 親指と人差し指を広げた長さ
  • too: 肘から指先までの長さ
  • ald: 両手を広げた長さ

太り具合:鋭い観察眼から

家畜や人間の栄養状態を、骨髄の様子などを例えに表現する。

  • chomogtei: 骨髄がある(太っている)
  • chomoggui: 骨髄がない(痩せている)

雪の深さ:動物の身体で測る

雪の深さは、身近な動物の体の部位を基準にする。

  • shubuuni mor: 鳥の足跡くらい
  • bogiin har turuu: 小型家畜の蹄くらい
  • bodin khar turuu: 大型家畜の蹄くらい
  • sagag: 馬の足首くらい
  • bogiin kheel: 小型家畜のお腹くらい
  • bodin kheel: 大型家畜のお腹くらい

川の水位:馬の身体で測る

馬で川を渡る際の水位も、馬の体の部位で表現する。

  • duruu: あぶみくらい
  • tamga: 尻の焼印の辺り
  • tashaa: 足の付け根
  • hulgui: 足が届かない深さ

家畜から作る商品の価格(2005年当時)

参考として、2005年に遊牧民に聞いた家畜関連商品の価格。 (当時のレートで1,000tg = 約100円)

家畜皮(枚)毛(kg)肉(kg)乳(l)
5,000tg280tg2,800tg-
山羊7,000tg~40,000tg1,700tg~-
28,000tg-2,800tg500tg
22,000tgたてがみ: 1,000tg 尾: 2,000tg1,700tg~-
ラクダ4,000tg~1,000tg2,800tg-

その他

  • 遊牧民に必要な干し草の価格:1,000tg/束

執筆本文:小山久子 編集:長岡岳志

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nagaoka takeshi

nagaoka takeshi

2013年から1年間モンゴルに留学してモンゴル語を習得。出会った遊牧民のツォクトさんのホームページを作ったことが経緯となって、ツォクトモンゴル乗馬ツアーの予約担当をしています。 最高の乗馬ツアーを作るために活動しています。モンゴル・キルギス・カザフスタンでの乗馬ツアーを各国の現地法人で運営しています。

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