
モンゴルで遊牧民と結婚した小山久子さんによる、モンゴル奮闘記シリーズ。今回は家畜の調教に関する話。
モンゴルの遊牧民にとって、家畜は財産であり、家族であり、移動のための重要なパートナーです。特に馬や牛、ラクダを輸送や乗用に適した温和な性格に育てる「家畜の調教」は、何年もの経験と手練が求められる不可欠な技術。それは力だけでなく、動物の性質を深く理解し、信頼関係を築いていく過程でもあります。ここでは、世代を超えて受け継がれる遊牧民の家畜の調教方法と、その中で育まれる馬との特別な絆について紹介します。
※2012年時点のモンゴルのウンドゥルシレット地方のしきたりや物価です。現在の物価は10倍ぐらいになっています。
家畜を慣らすための知恵と忍耐
夏になると、まだ人を乗せることに慣らされていない荒い馬を温和な性格の馬に調教する。 暴れる馬を砂や石のある場所に連れて行く。砂の場合は足を取られ、石の場合は石につまずき、暴れることができない。馬や牛、ラクダを輸送用に性格を大人しくさせるのは、簡単ではない。何年もの経験が必要である。
しかし、牛やラクダのほとんどは、荷を載せることをちゃんと学ぶ。荷を載せることを学んで、背中がくすぐったく感じなくなった牛は乗ることもできる。ラクダを調教するのは、難しい。恐ろしく暴れるという。しかし、2つのこぶがあるので上に乗っているのは容易ではある。とはいうもの、調教者には経験が必要で、男性の体力や能力、手練が問われる。
調教された牛やラクダは、背に下敷きのフェルトや鞍を置かれると暴れなくなり、一日中群れへ送り出すができる。小さい頃に寒さ避けとして背中を被いで覆われていた牛やラクダ、乳搾りの度に繋がれていた馬は、大きくなって調教するのが簡単である。
馬の調教:年齢と道具を見極める
馬を調教するのには、注意が必要である。酸っぱい乳を飲んでいた暴れ馬は力強い。ほとんどが2歳の時に調教されるが、時には3歳、4歳の時に調教する。5歳になるとかなり野生化しているので、調教するのは困難になる。このことから、「1歳で繋ぎ、2歳で従い、3歳で歯が生え、4歳で身体を引き締め、5歳で体力を回復させる」という言葉がある。1歳の時に繋がれることを学んだ馬は、2歳になると繋いで引いて行くことも容易であるし、乗り慣らさせるのも早い。
人に慣れていない馬を調教する時は、裸馬、鞍ありなど様々である。裸馬で調教した場合、どれだけ経験を積んでも鞍を置くのが大変である。なので、最初から鞍ありで調教するのが適している。また、ハミも今後使う厚めの金具のついたものを、最初から付けて調教するのが好ましい。その他、ムチを入れたら走るということも覚えさせなくてはならない。側対歩など、特殊な歩みの馬の場合は、その特殊な歩みが失われてしまうので、子供の内には調教せず、大人になってから調教する。
馬を扱う上での心得
最初に人に慣れていない馬を調教する時には、腹帯を正しく締めることから始める。ねじれていたり、突然続けさまに締めたりすると、腹帯を嫌がる性質になってしまう恐れがあり、また無駄に強く締めるとすり傷ができ、ゆるく締めると鞍が横滑りしてしまう危険性がある。馬に乗る時に腹帯を締め、降りて繋いでおく時に腹帯を緩めるようにするとすり傷ができずに済む。
馬を捕まえる時も、オールガ(馬捕り竿)で頭を叩いてしまうとオールガで捕まえられることを嫌がるようになり、捕まえづらい馬になってしまう。また満腹の馬を追いかけて捕まえると、馬の身体に負担がかかるため、好ましくない。
また、鞍は汗がひいてから取り外す。そうしないと背中が腫れ上がったり、急激に身体が冷えて病気になる危険がある。これは馬に限らず、鞍を用いる家畜全てに言えることである。
正しく調教された馬との絆
正しく調教された馬は、飼い主に大変慣れ親しむ。「鞍ありの馬は、飼い主を歩かせたりしない」という言葉があるほどである。そもそも馬は、自分の故郷や家を把握している動物である。遠くに行った馬が、自分で故郷に帰ってきたという話は多い。
また、真っ暗闇でも、馬はちゃんと家まで帰ってくれる。だから、もし遊牧民の家で酔っ払っても、馬の上にしがみついている体力さえあれば大丈夫。馬はちゃんと家まで送り届けてくれるだろう。現に、私は真夜中の12時過ぎに星明りもない暗闇の中で馬を信じて進ませていたら、ちゃんと家まで届けてもらった覚えがある。
執筆本文:小山久子 編集:長岡岳志
スタッフより|馬と生きる遊牧民の信頼関係
モンゴルの遊牧民にとって、家畜を調教することは、単なる技術ではありません。馬の性質を深く理解し、信頼関係を築きながら、かけがえのないパートナーを育てる過程そのものです。
馬の調教は、力任せではなく、馬を思いやる細やかな知恵の積み重ね。馬と人が心を通わせ、共に暮らしを営む様子は、私たちに多くのことを教えてくれます。
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