モンゴルで遊牧民と結婚した小山久子さんによる、モンゴル奮闘記シリーズ。今回は、フェルト作りに関する話。
モンゴルの遊牧民にとって、住居である「ゲル」を覆うフェルトは、厳しい自然環境で暮らすために欠かせない生活必需品です。このフェルト作りは、夏の限られた時期に行われる一大イベントであり、家族や近隣の人々が協力して行う大切な共同作業。そこには、自然の恵みを最大限に活かすための伝統的な知恵と、人々の絆を深める社交の場としての側面があります。
※2012年時点のモンゴルのウンドゥルシレット地方のしきたりや物価です。現在の物価は10倍ぐらいになっています。
フェルト作りの準備とタイミング

羊や子羊の毛を刈るのが終わると、フェルト作りが始まります。フェルト作りは、夏の中旬にだけ行われます。この時期を逃し作業が遅くなると、家畜が冬に備えて太るのに影響を与えてしまうため、タイミングが非常に重要です。
早くから羊毛を棒で打って繊維をほぐす準備を始めます。この時には、昨年取っておいた短い毛を用いることもあります。毛刈りとフェルト作りは、特に男性の力量が求められる仕事です。羊毛に含まれる脂(羊毛脂)は暑いと固まらないため、雲も風もない、太陽が照りつける暑い日に毛を打ってフェルトを作ります。もし雲が少しでも太陽を隠せば、品質を保つために仕事を中断するほど天候は重要視されます。
この仕事は家族総出で行われ、近所からも多くの人や馬が集まり、さながら宴会のようになります。人々が一堂に会する数少ない機会なので、遊牧民にとってフェルト作りは賑やかで楽しい時間なのです。
フェルト作りの工程
毛を打つ作業は、天気が良い日が続けば数日で終わりますが、何日もかかることもあります。作る量は家によって様々で、ゲル全体を覆うための大きなもの(およそ3m×2m)を10枚作る家もあれば、ゲルの壁に巻く分や、ウルフ(天窓を覆う布)、靴下、靴、敷物、ラクダに使う座布団などを作るための量だけを用意する家もあります。
フェルト作りは、老若男女問わず誰もが参加します。打って準備した毛を古いフェルトの上に均等にちぎって広げる作業は、女性が行うのに適しています。均等に広げた羊毛に水をかけた後、「ゴル(gol)」と呼ばれる丸い棒(長さ2アルドほど ※1アルド=両手を広げた長さ)に巻きつけます。それを外側から皮でくるみ、細い皮紐できつく縛り、1〜2頭の馬で力強く引っ張ります。そうすることで羊毛の繊維が絡み合い、圧縮されて硬いフェルトになっていきます。
馬の役割と作業の知恵
フェルトを引っ張る馬は、何日も前からつないでおき、この日のために力を蓄えておきます。地域によってはラクダを使うところもあります。馬にとって、この作業には良い点と悪い点があります。
- 良い点: フェルトを引っ張る作業は馬の足を丈夫にし、つまずきにくくします。
- 悪い点: 時々胸部が腫れ上がったり、すり傷ができたりすることがあるため、遊牧民は注意を怠りません。
作業が終わると、馬をすぐに放牧し、冬に備えて太らせます。
馬で引っ張る時には、子供が馬に乗ると縁起が良いとされています。また、地面が平らでゴツゴツしていない場所を選ぶことも重要です。そうしないと、フェルトに穴が開いたり、厚さが不均一になったりする問題が出てきます。フェルトは、厚さが均等でまっすぐになるように作らなければなりません。
最初に圧縮したフェルトを一度広げてチェックし、少し薄い部分があれば、そこに馬のたてがみを小さく切って散らし、均等にして強度を増すといった、古くからの知恵も活かされます。
執筆本文:小山久子 編集:長岡岳志
スタッフより|遊牧民の暮らしと、共同作業が生み出す温かさ
モンゴルの遊牧民にとって、フェルト作りは夏の最も暑い時期に行われる一大イベントです。暮らしに欠かせないゲルの材料を作るこの作業は、家族や近隣の人々が集い、力を合わせる大切な共同作業。天候を読み、馬と協力し、人々の絆を深める遊牧民の知恵が息づいています。
ツォクトのツアーは、単にモンゴルの景色を巡るだけでなく、人々の温かさや文化の営みに触れる旅です。
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